DOCTORS TALK

【ドクター対談】これからの予防医学と健康

超高齢化社会に突入した日本。これからは自分で自分の健康を管理する「セルフメディケーション」がますます重要になると言われています。そこで、予防医学の見地から、私たちが日常生活で取り組むべき健康管理や、これからの未来社会の展望について、抗加齢医学領域でご活躍されている森下竜一先生と内藤裕二先生にお話を伺いました。

Dr. RYUICHI MORISHITA

大阪大学 大学院医学系研究科
臨床遺伝子治療学寄附講座 教授

森下 竜一 先生

1991年大阪大学医学部老年病講座大学院卒業後、米国スタンフォード大学循環器科客員講師を経て現職。日本遺伝子細胞治療学会理事長。日本血管認知症学会理事長、日本抗加齢医学会副理事長、日本抗加齢協会副理事長など各学会の理事を務めるほか、内閣官房健康医療戦略参与、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。EXPO2025 大阪パビリオンの総合プロデューサーに就任。著書に『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』(青春出版社:共著)など。

大阪大学 大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学寄附講座 教授 森下 竜一 先生

Dr. YUJI NAITO

京都府立医科大学 大学院医学研究科
生体免疫栄養学 教授

内藤 裕二 先生

1983年京都府立医科大学卒業、2001年米国ルイジアナ州立大学客員教授を経て、2009年より京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学准教授、2015年同学附病院内視鏡・超音波診療部部長、2021年より現職。専門は消化器病学、消化器内視鏡学、抗加齢学、腸内細菌叢。酪酸菌と健康長寿の関係などの研究をはじめ、長年腸内細菌を研究し続けている本領域の第一人者。著書『消化管(おなか)は泣いています』(ダイヤモンド社)など。

京都府立医科大学 大学院医学研究科 生体免疫栄養学 教授 内藤 裕二 先生

人生100年時代を迎え、年を重ねても元気で自立した生活を送り続けたいという、健康への意識が高まってきています。少子高齢化が進む社会において、健康という概念や老化・疾病予防へのアプローチは、どのように変化しているのでしょうか?

内藤先生:予防医学という言葉は以前からありましたが、メタボリックシンドロームが注目された頃からは、主に肥満や動脈硬化、糖尿病といった疾患を対象に、色々なサプリメントの開発も含めた食事指導が行われてきました。それが2000年以降、特にここ10年ぐらいは、単に寿命を伸ばすだけではなく、人生100年時代をいかに健康に生きるかというところにテーマが移ってきています。

また、様々な老化のメカニズムを研究していく中で、「老化は病気ではないか?」という考え方も生まれてきました。もし、老化が病気であるならば、医者としては治せるかもしれないと考えるようになり、非常に単純な発想ではありますが、老化を治療の対象としてとらえる動きがでてきています。アメリカではすでに予防医学や抗加齢医学の観点から、医師がサプリメントを推奨していますが、日本ではまだまだ一般的ではありません。

森下先生:日本とアメリカではサプリメントの位置づけに大きな違いがあるのが現状です。理由の一つは、やはり国民皆保険制度です。日本では医療費を国が負担するため、基本的には健康は国が管理するものという感覚があります。いわゆる「セルフメディケーション」「セルフケア」ということに関しては、どちらかと言うとおざなりにされてきました。

ただし、これは歴史的にみると非常に短い期間であり、古い例では徳川家康が漢方薬を愛用していたと言われるように、むしろ健康は自分で守るというセルフケアの時代はずっと続いてきたわけです。そして今、超少子高齢化のなかで、国民皆保険制度そのものが揺らいできています。健康への概念が少し変わってきて、自分自身で健康を守らなければいけないという風に皆さんが意識し始めたこと、これが大きな変化のポイントだと思います。

アメリカでは「ブルーボタン」と言う医療システムがあり、各自がいろんな場所で受けた医療や検診などの情報がひとつのアプリに集約されています。そのため、どこに行っても本人の医療情報がワンクリックで利用できます。現状の日本では各病院や健康保険組合が持っていますが、これからは個人がデータを持つ方向に変わっていく、そういう時代になっていくでしょう。

内藤先生:今、生物学的年齢というのが注目されています。世の中には、同じ年齢でも若く見える人もいれば、老けて見える人もいます。体が老化するスピードには大きな個人差があるということです。

ニュージーランドで同年齢の約1000人を対象に、26歳から45歳までの20年間にわたる老化の進行を追跡した面白い研究があります。調査結果では、暦年齢が1歳上がるごとに一番早い人で2.44歳も老化するのに対し、最も遅い人では0.4歳しか老化していませんでした。また45歳時点で生物学的な年齢が進行していた人は、歩行速度などの身体機能や認知機能に低下がみられ、見た目の老化も進んでいました。

そうなると私たちは、自分の生物学的年齢は何歳だろうかと知りたくなりますね。実際に今世界では生物学的年齢をDNA解析などいろいろな方法で調べる研究が進んでいます。また、健康的な食事や健康的なライフスタイルを送ることで、生物学的年齢が若返るという研究も発表され、世の中で盛り上がってきています。自分自身の生物学的年齢を把握し、それに対してアクションできるということも、これからの健康対策の大きなポイントだと思います。

2025年に開催される大阪・関西万博では「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、「健康」も私たちの未来社会で解決していくべきグローバルなテーマとされています。森下先生は「大阪パビリオン」の総合プロデューサーをされていますが、未来社会における健康や未病について、今後どのようにデザインされ発展していくとお考えですか?

森下先生:EXPO2025の大阪パビリオンでは、2050年の未来を想定し、アンチエイジングをテーマに来館者の健康状態を自動診断する「アンチエイジングライド(未来の診断体験)」や、近未来に実現可能な医療サービスを展示する参加型施設「ミライの病院」などを企画しています。

2050年にはホームドホスピタル、もう家が今の病院のような状態になっているというのが多くの専門家の意見です。つまり、ITの進化と活用が進むことで、現在病院で行う超音波検査や血圧測定、エコー検査などが、家庭の中に入り込んでいて、病院の役割は先進医療の部分に集約されていくだろうと考えています。

逆に言うと、今は医療技術やITの活用が十分でないが故に、病院に行って、まず自分が病気かどうかを診断してもらう必要があるということです。おそらく2050年では家にいながら自分の健康状態の判別がつくようになって、本当の意味で薬剤や治療が必要な人だけが病院に行くような状態になるだろうと予想されます。

先ほどの内藤先生のお話のように、寿命が長くなればなるほど個々の健康状態に差が出てきますから、当然個人の努力しだいでその差は広がります。例えば腕時計のようなウェエラブル端末で、常に自分の健康状態が分かれば、運動やサプリメントなどの活用で、積極的に自分の健康に関与する人が増えるのではないでしょうか。

内藤先生:病院で受診するたびに採血しなくとも、例えば部屋に入っただけで血圧も皮膚年齢も血管年齢も、さらに腸年齢までも測定できる時代になれば、毎日健康のためにがんばって続けていることの励みになります。逆に「この健康法はちょっと変えた方がいいのでは?」など、自分にとって何がいいのかをより深く考えるきっかけにもなります。そのためには、血液マーカーに限らず、様々な指標で健康をモニターできるようになるのが理想です。

森下先生:内藤先生がおっしゃるようにまさに老化の指標、それを決めていこうというのが大阪パビリオンの狙いです。いま抗加齢医学会の理事を中心に、内藤先生にもご参加いただいて「エイジングクロック」というプログラムを作っています。いわゆる「老化時計」ですね。ウェアラブルデバイスや非接触型のデバイスで、暦年齢とは別の、生物学的年齢を簡単に測定し、そのデータをもとに、例えば10歳若返りたいのであれば、10歳若返るためのパーソナライズ化された食事、パーソナライズ化された運動などが提案されます。そんな未来を大阪パビリオンではリアルに体感いただけます。

今日お昼にとんかつを食べたら何歳年を取って、サラダを食べたら何歳若返るかといった情報がAIによって示されるとしたら、もちろんそこで年を取るという選択をしても構わないのですが、多くの人は、おいしいものであれば健康になる方を選ぶのではないでしょうか。あるいは今日30分運動して、あと10分がんばれば老化時計が64歳から63歳に戻るとなれば、後10分がんばってみようかと思うはずですね。2050年は、常に自分のエイジングクロックが見える、そんな世界になっていると思います。

将来的には自分の健康状態を精緻に把握できる時代がくると思いますが、そのような技術革新が目覚ましい社会の中で、私たちは自身の健康をどのように考え、対策していくことが必要でしょうか?

森下先生:本来はいきなり病気になるのではなく、その前に未病という状態があります。老化を病気だと認識すると、人間はまさにオギャーと生まれた時からいわゆる未病の状態が始まっていることになります。先に行けば行くほど差がついてきますから、どれだけ早く介入してどれだけ健康状態を保てるかということが重要になってきます。

内藤先生:食生活ということでは、健康のベースとなる栄養素が不足していることが現代人にはよく見られます。私は消化器領域の腸が専門ですが、今の日本人の食生活のパターンを見ていると、多種多様であった日本人の腸内の菌種が着実に減ってきています。そこで百寿者の食事や腸内細菌を徹底的に調査して、現代人向けのメニューを開発するという取り組みも進めています。
私自身も、忙しくて食事バランスが崩れることがあるので、総合ビタミン系のサプリメントをベースに、体調や好みでいくつかのサプリメントを組み合わせて飲んでいます。さらに毎朝スペシャルスムージーを作り、不足しがちな栄養素をしっかり補うようにしています。

さらに、これは色んな疫学調査や長寿のデータからも明らかですが、身体的活動の維持、つまり運動の効果は絶大です。人間、やはり食事、運動、睡眠が大切ですね。

日本でもサプリメントのパーソナライズ化、セルフメディケーション化が進むと予想されますが、現状の課題や今後サプリメントに期待することは何でしょうか?また、私たちがサプリメントを正しく理解し、活用するためには、どのような点に気を付ければよいでしょうか。

内藤先生:日本のサプリメントは、配合成分についてもう少し詳細に情報公開していく必要があると思います。なぜこのサプリメントが生まれ、何を目的に摂取するのか、科学的エビデンスを担保しながら理論的に説明されていけば、消費者も自分に必要なサプリを選ぶことができます。

また直接販売する薬局の方や栄養士などに情報を提供できるメディカルスタッフの育成も重要です。科学的エビデンスに基づいて情報が偏りなく整理されていけば、医療の現場でも今後サプリメントの活用が進んでいくのではないでしょうか。

森下先生:成分が何か、またその成分の機能性が何かということが、通常のサプリメントでは見えづらいことは課題ですね。そういう意味では、機能性表示食品は関与成分名とその機能性がインターネット上に公開されているので、この中でよりパーソナライズ化されていくのが基本的には望ましいと思っています。

もう一つは、今日本のサプリメントは、あくまでも健康の維持増進の範囲に限定されていることです。アメリカやヨーロッパではもう少し疾病予防まで踏み込んでいるため、これは国の規制もありますが、将来的には日本でも病気の予防に関わっていくことになるでしょう。そこに向けてしっかりエビデンスを積み上げていくことも、企業にとって重要な課題ではないでしょうか。

内藤先生:アメリカでも世代別や性別に分けたサプリメントがたくさん販売されていますが、裏面を見ると何を根拠にしているか全部記載されてますからね。そこが担保されているのは大きいですし、今後は日本でも重要視されてくるでしょう。

森下先生:今のパーソナライズドサプリメントの選択には、2つの方向性があります。ひとつは食事や体脂肪など比較的限定された情報の中からその人に合っているだろうと思われるものを選択すること。これはある意味足りないものを補うということで本来的なサプリメントと言えます。

もう一つのあり方としては、より次世代的とも言えますが、その人が何を改善したいのかをプラスアルファしたうえでサプリメントを選択することです。個人によって考え方が全く異なりますから。例えば、歩く筋肉を保ちたいのか。それとも、肌の水分量や見た目に興味があるのか。あるいは血管年齢か。それによって当然選択するサプリメントは変わってきます。

今はようやくパーソナライズドサプリメントの元年を迎えた状況で。これから色々なセンサーを用いたセンシング技術やITの活用も含めて、急速に進化していくのではないでしょうか。

内藤先生:サプリメントの形状や味なども、どんどん変わってくるでしょうね。

森下先生:3Dフードプリンターで作ったような、ケーキや鶏のから揚げみたいなサプリメントや、将来的にはサプリメントレストランもありうると思いますよ!

また、エイジングクロックを遅らせるためには、「抗酸化」と「抗糖化」が普遍的なキーワードです。ここにしっかりアプローチできる製品を選ぶことも、ぜひ意識すべきだと思います。

内藤先生:サプリメントも、やはり品質に信頼のおける会社の製品を選びたいですね。必要な成分でも配合量が不足していたり、そもそも物自体の品質が悪ければ本末転倒ですから安全性はすごく重要です。

アスタリールは、アスタキサンチンの分野ではパイオニア的な存在ですね。原料の製造からサプリメントまでを一貫して提供できる企業として、これからも高品質な製品づくりに期待しています。

弊社もみなさまの健康にさらに貢献できるよう、今以上に精進してまいります。
本日はたくさんお話しいただきありがとうございました!